はじめに
人工授精に使用する【精子】を見たことはありますか?
ほとんどの人は実物を見たことがないと思います。「見たい!」と思ってもそう簡単には見れませんよね。(汗)
しかも授精師さんにわざわざ頼んで見せてもらうのはかなりハードルが高いと思います。
でも、牛が妊娠するために必要な精子がどんなものなのか気になりませんか?
謎多き未知の『精子と精液ストロー』について紹介したいと思います。
精子は冷凍されている
牛の精子は、専用の【ストロー】の中に入っていて、液体窒素の入ったタンクで冷凍保存しています。
授精する時は、【精液ストロー】を【保存タンク】ごと現場まで持っていき、その場で融解して発情牛に注入します。
精液ストローは2種類ある
国内で流通している精液ストローは【0.25ccストロー】と【0.5ccストロー】の2種類あります。
精液ストローの規格(太さ)が違い、それによって内容量が違ってきます。国産精液は【0.5cc】ストローで作られ、海外からの輸入精液は【0.25cc】で作られていることが多いです。
また、ストローそれぞれに色分けされていて目でも判断できるようになっています。このおかげで授精するときに付け間違い等の防止に役立っています。
精液の写真
実際の精子の写真です。思ったよりも量が少ないと思う方も多いのではないでしょうか。
0.25ccでだいたい2~3滴ほどしかありません。あんなに大きな牛に授精をするのに、実際はたったこれだけの量で完結します。僕が初めて精子を見たときはあまりの少なさに拍子抜けしたのを覚えています。
精子は、一般的に黄色っぽい色をしています。製造する過程で着色されて赤色の精液もあります。ノーマル精液は【黄色】、雌雄性選別精液は【赤色】をしていることが多いです。
【写真右側】 ノーマル精液(オス・メス混合)
【写真左側】 性選別精液(メスのみ)
ストローで何が違うの?
0.25ccと0.5ccでは、中に入っている【精子数】が違います。
精液ストロー1本の中には、【約2000万~5000万匹】ほど入っているとされています。
※製造方法や販売会社によって数は異なります
つまり【0.25cc】よりも【0.5cc】の方がより多く精子が入っていることになります。
【0.5ccストロー】の方が「得じゃん!」と思った人は、少し注意が必要です。
【0.5ccストロー】はダメージを受けやすい?
精液ストローをお湯に入れると、外側から内側に向かって温度は伝わります。
ストローの中心まで完全に温まることで精子は活発に活動できるようになります。この温度が伝わる速度が遅いと精子は温度差によるヒートショックを受けて死んでしまいます。
よってストローを融解する時は、お湯の中に入れて一気に温める(-196℃ ➡ +37℃前後)必要があります。
ストローが太くなると、それだけ中心まで熱が伝わるのに時間がかかるのでヒートショックを受けるリスクが高くなります。
つまり【0.5cc】の方が精子が死ぬリスクが高いということです。
0.25ccと0.5cc 結局どっちがいいの?
ストローの特徴を比べるとこのようになります。
0.25cc・・・【精子数】少ない 【死亡リスク】低 い
0.5 cc・・・【精子数】多 い 【死亡リスク】高 い
ひと昔前までは、『輸入精液やメス精液は受胎率が低い』という噂がありましたが、現在はほとんど差はありません。
よって、どちらを使用しても受胎率に影響はあまりないといえます。
さいごに
受胎率を向上させるため、各社でいろいろな研究が行われており、技術は日々進歩しています。
一例をあげると、精子数が通常よりも多い【特濃精液】や、精子の活力を上げる栄養剤が入った【2層式精液】なども売られています。特に最近の性選別精液は、経産牛に授精しても高い受胎率が期待できます。僕は、後継牛確保のためにも積極的なメス精液の授精を推奨しています。
以上、『意外と知らない牛の精液』の紹介でした。
少しでも、酪農家の皆さんの『話のネタ』になれば幸いです。
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