記事について

酪農の知識や経験の浅い人に向けた内容になっており、イメージしやすいようにやわらかく丁寧に説明するよう心がけています。

【初心者必見】もう悩まない!近交係数をわかりやすく解説

繁殖講座

近交係数は怖くない!

『近交=悪いもの』と思っている人が多いですがこの解釈は間違っています。

結論、近交係数は『気にしなくていい』です。

なぜなら、【近交退化】より【遺伝的改良効果】の方が高いからです。

 

近親交配と近交係数について

他の動物と比べてホルスタイン種だけが近交係数に厳しく、良くない印象を持っている人が多いです。知識のある人は、「近交係数は低いほうがいいに決まっている」と言います。本当にそうでしょうか? 具体的に説明しますので最後まで見てもらえると嬉しいです。

大前提として、近親交配はよくありません

「そんな当たり前なこと言うなよ」と思ったあなたは正しいです。

近親交配は血縁関係が近い者同士の交配を指し、ホルスタイン種では【親子掛け】がこれに当たります。これを授精師の中では一番のタブーとされていて、親子掛け(近親交配)によって、生まれた子に様々な悪影響が出るため基本的に近親交配を避けるようにします。このことは人間や動物においても常識となっていることだと思います。

 

あなたは答えられますか?

問題です。

Q、ホルスタイン種において『近交係数はの最大値は何%ですか?』

 

 

 

 

A、約25%です

ホルスタイン種の場合、最も近交係数が高い交配は【親子掛け】であり、その近交係数が約25%です。25%より高い数値は一般的にはありえません。このことからホルスタイン種の近交係数は0%~25%の間に収まります。

【親子掛け】 「父A」と「母B」を交配して生まれた「娘C」に「父A」を交配すること              

 

次の問題です。

Q、近交係数は何%が良いの?

 

 

 

 

A、6.25%が理想です

日本ホルスタイン登録協会が推奨している数値で、知っている人も多いかと思います。この数値を基準に数値が大きくなると【近交退化】が起きます。ここでは詳しい説明は割愛させていただきますが、近交退化をわかりやすく言うと【近交退化が起きる=乳量が減る】ということです。これは多くの酪農家に広く認知されていることだと思います。

 

近交係数の真実

近交係数が上昇する】➡『近交退化が起こる』➡『乳量が減る』➡『収入が減る』=【悪いこと】

だから酪農家のみなさんは近交係数を気にするようになり、近交係数の上昇を嫌うようになったのです。もちろん乳量が減れば収入も減少するため生活にも大きく影響を与えます。

でも、この説は【半分正解】であり【半分不正解】です。

なぜなら、【近交係数】が上昇しても【近交退化】は起きないからです。

誤解がないように説明しますが、厳密には近交係数が1%上昇する毎に【近交退化】は起きますが、それよりも種雄牛の持つ【遺伝的改良効果】の方が高いので、結果、能力の高い子牛が生まれる。よって、近交退化は起きていないのと同じという理屈です。でも、この事実を知らない人が非常に多いです。

実際にホルスタイン登録協会担当者にも確認しましたが上記に相違ないとの返答でした。

しかし、推奨する近交係数が発表されるとその数字だけが広く認知され、それを超えてはならないという誤った解釈が広がりました。しかも、日本の近交係数は乳牛改良とともに日々上昇しており、近年は理想値を8.4%にまで引き上げていて、今後は9%以上も検討されています。一部地域では既に10%で対応しているところもあります。どんどん数値が上がっていくことに不安を抱く人が多いのだと思います。

なぜ近交係数は上昇するの?

いつの間にか娘牛の近交係数が高くなっている。そんなことを思ったことはありませんか?そのからくりを説明します。

実は、近交係数が高くなっているのはオス(種雄牛)なんです。

現在流通している精液(種雄牛)は、【NTP】や【TPI】といった各国の種雄牛ランキングに入る牛のみが販売されています。すなわち、このランキングに入れない牛はそもそも販売されないということです。

現在の種雄牛のランキングの上位を占める牛たちの多くは同じ血統構成(共通の父をもつ)なので必然と近郊係数が高くなります。しかも、共通する父の血を引いていないとこのランキングに入ることができないのが現状です。

よって、近郊係数の上昇を止めることはできません。だから近交回避システムや交配相談を使って近交係数の上昇を鈍化させる取り組みが行われています。

 

アメリカの現状

現状、牛の近交係数の上昇することを止めることはできませんが、世界と比べると日本の近郊係数はそれほど高くはありません。実際の農家さんで近交回避システムを使って数値を確認してもまだ8~9%程度の牛がほとんどです。先に説明した通り、仮に10%だとしても近交退化は起きません。現に、日本が模範としている酪農大国アメリカでは既に娘牛の平均近交係数は13%ともいわれていますが特に問題になっていません。

なぜか? それは、近交係数が高い牛でも普通に牛乳が搾れているからです。

仮に近郊係数が高いことが問題になれば、【TPI】ランキングのほとんどをアウトクロス牛にしないといけませんよね?そうしなければ精液が売れなくなることは簡単に予想ができます。

では実際の【TPI】ランキングはどうでしょう?そんなことにはなっていませんよね。

ということは、今はまだ気にする段階ではないということになります。

 

さいごに

今回の説明で、近交係数を過剰に心配する必要はないことが理解できたと思います。

それをを踏まえた上で僕から言えることは1つです。

なにも気にせず自分の好きな種(種雄牛)を付けてください』

皆様の種雄牛選定において少しでも参考になれば幸いです。

 

 

 

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